どこに行っても 改善しない痛みには理由があります。
走ると膝が痛くなるのはなぜか?

~膝治療専門家が徹底解説する痛みのメカニズムと対策~
ランニングは手軽に始められる全身運動ですが、多くの方が経験するのが膝の痛みです。「なぜ走ると膝が痛くなるんだろう?」その疑問に、膝治療を専門とする治療家の立場から詳しく解説いたします。
①膝関節の構造とランニングにおける負担
まず、膝関節の基本的な構造を理解することが重要です。膝関節は大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、そして膝蓋骨(お皿)の3つの骨で構成されています。これらの骨の表面は、衝撃吸収と滑らかな動きを担う関節軟骨で覆われています。また、関節の安定性を保つための靭帯、クッションの役割を果たす半月板、そして関節の動きを制御する筋肉や腱が複雑に連携しています。
ランニングという動作は、この複雑な膝関節に繰り返し大きな負荷をかけます。着地の際には、体重の数倍もの衝撃が膝関節にかかり、屈伸運動のたびに軟骨や半月板、靭帯、筋肉にストレスが加わります。特に、走行距離やスピード、路面の状態、ランニングフォームなど、様々な要因が複合的に作用し、膝に過度な負担がかかると痛みが生じるのです。
②走ると膝が痛くなる主な原因
ランニングによる膝の痛みは、単一の原因で起こることは稀で、複数の要因が絡み合っていることが多いです。代表的な原因を以下に挙げます。
②-①オーバーユース(使いすぎ):
これが最も一般的な原因の一つです。走行距離や頻度を急激に増やしたり、休息を十分に取らなかったりすると、膝関節周囲の組織が疲労し、炎症を起こしやすくなります。特に、ランニング初心者や、久しぶりに運動を再開した方に多く見られます。
②-②ランニングフォームの不良:
不適切なフォームは、膝関節に不自然な負荷をかけ、痛みの原因となります。
●ニーイン・トゥアウト: 膝が内側に入ったり、つま先が外に向いたりするフォームは、膝関節にねじれを生じさせ、靭帯や半月板に負担をかけます。
●過度なストライド: 歩幅が大きすぎると、着地時の衝撃が大きくなり、膝への負担が増加します。
●体幹の不安定: 体幹の筋肉が弱いと、上半身のブレが大きくなり、下半身への負担が増加し、膝関節の安定性を損ないます。
●ヒールストライク: かかとから強く着地するフォームは、衝撃がダイレクトに膝に伝わりやすいです。
②-③筋力不足と柔軟性低下:
膝関節を支える筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス、臀筋など)の筋力不足は、関節の安定性を損ない、衝撃を吸収する能力を低下させます。また、これらの筋肉や周囲の靭帯の柔軟性が不足していると、関節の可動域が制限され、無理な力が加わりやすくなります。
②-④シューズや路面の問題:
●クッション性の低いシューズ: 衝撃吸収能力の低いシューズは、膝への負担を増大させます。
●硬い路面: アスファルトやコンクリートなどの硬い路面は、衝撃が吸収されにくく、膝に直接的な負担を与えます。
●下り坂: 下り坂を走る際は、膝関節により大きな制動力が働き、負担が増加します。
②-⑤アライメント異常:
骨盤や下肢のアライメント(骨の配列)の異常、例えばO脚やX脚などは、膝関節に不均等な負荷をかけ、特定の部位に痛みが生じやすくなります。
②-⑥既存の疾患や外傷:過去の膝の怪我(半月板損傷、靭帯損傷など)や、変形性膝関節症などの既存の疾患がある場合、ランニングによって症状が悪化したり、痛みが再発したりすることがあります。
③膝の痛みの種類と原因疾患走ると膝に生じる痛みは、その部位や症状によって、いくつかの代表的な疾患が考えられます。
●ランナー膝(腸脛靭帯炎): 膝の外側が痛むのが特徴です。太ももの外側にある腸脛靭帯が、膝の屈伸運動によって大腿骨外側上顆と摩擦することで炎症が起こります。走行距離の増加やフォームの乱れが原因となることが多いです。
●ジャンパー膝(膝蓋腱炎): 膝のお皿の下にある膝蓋腱に痛みが生じます。ジャンプやダッシュなど、膝の屈伸を繰り返す動作で腱に過度な負荷がかかることで炎症が起こりますが、ランニングでも発生することがあります。
●鵞足炎: 膝の内側のやや下にある鵞足(縫工筋、薄筋、半腱様筋という3つの筋肉の腱が付着する部分)に痛みが生じます。オーバーユースや内反膝、ハムストリングスの柔軟性低下などが原因となります。
●半月板損傷: 膝を捻る動作や過度な負荷によって半月板が損傷すると、膝の曲げ伸ばしの際に痛みや引っかかりを感じることがあります。ランニング中の急な方向転換などで起こることがあります。
●変形性膝関節症: 関節軟骨が加齢や使いすぎによってすり減り、関節に痛みが生じます。ランニングは症状を悪化させる可能性があります。
④膝の痛みの治療とリハビリテーション
膝の痛みの治療は、原因や症状の程度によって異なりますが、初期には安静、冷却、圧迫、挙上(RICE処置)が基本となります。痛みが強い場合は、消炎鎮痛薬の内服や外用薬を使用することもあります。
根本的な改善のためには、リハビリテーションが非常に重要です。理学療法士の指導のもと、以下のようなリハビリテーションを行います。
●ストレッチ: 膝関節周囲の筋肉や靭帯の柔軟性を改善します。特に、大腿四頭筋、ハムストリングス、股関節周りの筋肉のストレッチは重要です。
●筋力トレーニング: 膝関節を安定させるための筋力、特に大腿四頭筋、ハムストリングス、臀筋、体幹の強化を行います。
●フォーム改善指導: 専門家によるランニングフォームの分析と指導を受け、膝に負担のかからない効率的なフォームを習得します。
●装具療法: 痛みが強い場合や、特定の動作時に痛みを軽減するために、サポーターやインソールを使用することがあります。
⑤ランニングによる膝の痛みを予防するためにランニングによる膝の痛みを予防するためには、日頃からのケアと走行時の注意が重要です。
●適切なウォーミングアップとクールダウン: 運動前にしっかりとウォーミングアップを行い、筋肉や関節を温め、柔軟性を高めます。運動後にはクールダウンを行い、筋肉の疲労回復を促します。
●適切なシューズの選択: クッション性、安定性、フィット感に優れたランニングシューズを選びましょう。
●無理のない走行計画: 走行距離やスピードを徐々に増やし、体に無理のないペースでトレーニングを行いましょう。
●適切なフォームの習得: 専門家の指導を受け、正しいランニングフォームを身につけましょう。
●定期的なストレッチと筋力トレーニング: 日頃から膝関節周囲の筋肉の柔軟性を保ち、筋力を強化するトレーニングを行いましょう。
●路面の選択: なるべく柔らかい路面(土や芝生など)を選んで走り、硬い路面での走行は避けましょう。下り坂での走行は慎重に行いましょう。
●体のケア: 疲労が蓄積しないように、十分な休息と睡眠を取り、バランスの取れた食事を心がけましょう。
●異変を感じたら休養: 膝に少しでも痛みや違和感を感じたら、無理せず休養することが大切です。痛みを我慢して走り続けると、症状が悪化し、長期的な休養が必要になることもあります。
⑥最後に
走っていて膝が痛くなる原因は多岐にわたり、それぞれの原因に応じた適切な治療と対策が必要です。自己判断で放置したり、痛みを我慢して走り続けたりすることは、症状を悪化させ、ランニングを長く楽しむことを妨げる可能性があります。
もし、膝の痛みが続くようでしたら、自己判断せずに整形外科を受診し、専門医の診断と適切なアドバイスを受けることを強くお勧めします。早期に適切な対応を行うことで、痛みを改善し、再び快適なランニングライフを取り戻すことができるはずです。